子育ての医学情報

他人ごとではない「健康保険組合の解散」(1)

「国民皆保険」50周年目の悲劇

2008年8月1日、運送業大手セイノーホールディングスのグループ企業社員や家族が加入する「西濃運輸健康保険組合」が解散し、9月9日には外食産業の吉野家ホールディングス傘下にある京樽の健康保険組合が9月1日付で解散していたことが報じられました。健康保険組合が解散しても組合員が医療保険の対象外になるわけではなく、一般的にはそれほどの大事件とは受け止められませんでした。しかし、これらのニュースは、かなり恐ろしい未来を暗示しているのです。
 日本は1958年から国民のすべてが健康保険に加入する「国民皆保険」制度をスタートさせました。つまり2008年は、国民皆保険50周年にあたるわけです。
 この皆保険を支える健康保険には下のようなものがあります。
(1) 組合管掌健康保険(組合健保) 一定規模の企業や企業グループ、同業の企業群などが運営する健康保険組合
(2) 政府管掌健康保険(政管健保) 健康保険組合を持たない企業の従業員が加入し、社会保険庁が運営する健康保険
(3) 船員保険 船舶の船員が加入し、社会保険庁が運営する健康保険
(4) 共済組合 国家・地方公務員、私立学校教職員などが加入する健康保険
(5) 国民健康保険(国保) 個人事業主や無職者など上の健康保険に加入しない人々のための健康保険。市区町村などが対応する。同業の自営業者や同地域の開業医などが連合して、国民健康保険組合を作る例も多い
 なお、これまで社会保険庁が運営してきた政管健保と船員保険は2008年10月に新たに発足する全国健康保険協会(協会けんぽ)が運営することになりました。

後期高齢者医療への負担は8.3%増

さて問題の組合健保は、実は、2008年4月以降の半年間で13組合が解散しています。昨年1年間で解散した組合が12ですから、そのペースは急速であり、今後、さらに解散する組合が増加することが確実視されています。
 その直接の理由は、2008年4月に導入された後期高齢者医療制度に代表される高齢者医療制度の見直しにより、健保組合の負担が増えたことです。
 2007年度までの高齢者医療制度である「老人保健制度」においても、高齢者医療への組合健保や政管健保からの支援金はあったのですが、新制度になって組合健保の負担が過大になっています。厚生労働省の調べによると、後期高齢者医療制度に対する2008年度の健保組合の支援金は1兆2266億円で、2007年度より約940億円(8.3%)も増加しています。一方、政管健康への支援金は1兆4293億円で、こちらは前年比16.9%の減少です。
 政府は、今回の高齢者医療制度の改正は「高齢者にも相応の負担をお願いし、若者の負担が重くならないようするもの」と説明してきましたが、若い世代が中心となって支える健保組合が大きな負担増を強いられる結果になっています。

後期高齢者医療の負担金は4兆円

こうした施策のメインの狙いは、国庫負担の低減にあります。主たる健康保険である、組合健保、政管健保、国保を比較すると、組合健保が「保険負担100%、国庫補助0%」なのに対し、政管健保は「保険負担87%、国庫補助13%」、国保は「保険負担50%、国庫補助50%」となっており、組合健保は唯一負担を強いても国の懐はいたまない健保であることが分かります。
 さらに、新しい高齢者医療制度の特徴は、後期高齢者の健康保険を分離した点です。これまでの老人保健制度では、同一の健保に加入しながら、老人医療が適用されていたのですが、新制度では、75歳になるとそれまで加入している国保や健保を脱退し、後期高齢者だけの独立した保険に組み入れられます。そしてこの後期高齢者医療制度に必要な医療費は11兆円と見積もられ、そのうちの4兆円を組合健保が負担し、5兆円を国庫が負担することになっています。

前期高齢者医療への負担は5倍増

しかも前期高齢者への組合健保の負担もこれに加わります。前期高齢者とは65歳から74歳の世代ですが、この層に対する組合健保の拠出金は2000億円でした。これが新制度では1兆1000億円と5倍以上に増額されたのです。これまでこの年齢層への組合健保からの支援は組合健保の旧加入者、つまり退職者の医療費に限られていましたが、新制度では前期高齢者の多くが加入する国民健康保険全体への支援を求められることになったのです。
 さて、こうした高齢者医療の新制度は、今後、私たちの生活にどのような影響を与えるのでしょうか? 次回は、その「恐ろしい未来」について語り、いったいどうしたらよいのか考えてみることにしましょう。

記事ナンバー245/2008.10.3より掲載
文・恵志泰成 監修・中原英臣 イラスト・山本正子