子育ての医学情報

子ども療養支援士への期待

不安や恐怖を抑え込むしかなかった日本の医療

医療機関で治療を受けることは、誰にとっても不安がつきまとう体験です。ましてや治療の意味が理解できない幼児にとって、医療機関は不安な場所であり、注射や検査機器を前に恐怖心を抱くのは当然のことです。
 これまでは、恐怖を抱く子どもに我慢を強いて治療を受けさせるというのが当たり前とされてきましたが、こうした体験が幼児の心に傷を残す例は少なくありません。近年は、CTやMRIのように、ひとりで暗い場所に押し込められるような検査も多く、子どもに不安や恐怖心を植え付ける機会は多くなっています。
 さらに入院をするという場合には、お父さん、お母さんと離れて暮らすことになり、両親が仕事をもっていると、昼間にも孤独を味わいながら、さまざまな治療の不安や恐怖に耐える必要があります。これが長期に及べば、子どもの精神的な発達にも支障が出る危険性は大きいといえます。
 病院やクリニックに治療のために訪れる子どもたちの心のケアは従来、医師や看護師の仕事とされてきましたが、彼らも多忙であり、子どもたちの思いにすべて応えるわけにはいきません。

英米の医療機関で活躍する子どもの支援スペシャリスト

子どもたちの不安や恐怖をやわらげる専門家 治療や入院において、子どもたちが不安や虐待意識を解消できるなら心に傷を負うこともなく、治療への前向きな心構えができれば、治療効果や治癒力も大きくなることが期待できます。
 こうした点を考えれば、子どもに治療や検査の必要性や内容を理解してもらい、治療中、入院中に子どもの不安を減じ、さらに治療や検査の苦痛を和らげる役割を担う専門家の必要性が理解できます。実際に、イギリスには、こうした役割を担う「ホスピタル・プレー・スペシャリスト」がおり、アメリカとカナダには「チャイルド・ライフ・スペシャリスト」がいます。両者の役割には多少の違いはあるものの、どちらも幼児を中心とした子どもたちに、人形や絵本を使って治療や検査の必要性を理解させ、不安や恐怖を和らげるためにいっしょに遊びます。こうした支援によって、治療中の子どもたちに心の傷を負わせることなく、入院中の子どもの心の発達をも支援することが可能となります。

2011年度に「子ども療養支援士」の養成開始

そして日本でも、その役割を担うスペシャリストの育成に乗り出すことになりました。それが「子ども療養支援士」です。その目的は、以下の通りです。
●病気や障害をもつ子どもの成長・発達を支援し、入院や治療にともなうトラウマを軽減・緩和する援助を行う。
●子どもの発達段階や個性に配慮しながら、自分の課題(治療その他)に主体的に取り組めるように環境を整える。子どもや家族の個々のニーズに応じた心理社会的支援に特化した活動を行う。
 2010年12月に、こうした役割を担う「子ども療養支援士」を養成・認定する「子ども療養支援協会」が発足し、同協会は2011年度に4人の「子ども療養支援士」を養成・認定する予定ということです。
 現在、イギリスで「ホスピタル・プレー・スペシャリスト」の資格を取った人と、アメリカ・カナダで「チャイルド・ライフ・スペシャリスト」の資格を取った人が、日本国内で約20人働いています。子ども療養支援協会は、こうした専門家の意見も取り入れて、子ども療養支援士の創設の準備を進めていく予定です。養成講座を開始するのは、順天堂医院小児科と大阪府立母子保健総合医療センターの2か所で、1年間の養成講座によって、子ども療養支援士を育成・派遣する予定です。
 日本の子ども療養支援士に関しては、順天堂大病院が、幼児に治療内容を説明する液晶端末を用意して、注射、点滴、X線検査などの価値と実際の方法を解説したオリジナルアニメを制作して、小児科での子どもたちの治療に活用しています。
 日本の子ども療養支援士は、こうしたアニメ―ションもフル活用し、治療を受ける日本の子どもたちが治療に臨む心構えを巧みにつくっていくことが期待されます。

記事ナンバー278/2010.12.24より掲載
文・恵志泰成 監修・中原英臣 イラスト・山本正子